名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)152号 判決
原判決を検討すると、原審は、主文第三項に於て、被告人山西に対し、押収に係る現金五万円(証第四号)を没収する旨言渡したことを認め得る。弁護人は「該金員は、被告人田中から被告人田畑に供与された金員の一部であるか、或は被告人山西から被告人田畑に供与された金員の一部に属するか、記録上全く不明であり偶々該金員が被告人田畑から同山西の許に返還された故を以て、これを被告人山西より没収するのは、違法不当である。」旨、主張し、また原審証拠調の結果によるも、証第四号は、被告人田中、同山西の両名の中、いずれの者から被告人田畑に供与されたものであるか、必ずしも明かでないことは、所論の通りであるけれども、しかしながら、さらに原審証拠調の結果を検討すれば、証第四号の現金は、被告人田畑に於て、被告人田中及び被告人山西の両名から収受した合計金十六万円の一部であつて、それ以外の何ものでもないことが明白であり、従つて、該現金が被告人山西の許に返還されたことを認め得る限り、裁判所は、公職選挙法第二百二十四条に則り、その供与者の何人であるかに拘らず、被告人田畑が本件犯行により収受した利益として、その返還を受けた被告人山西より、これを没収しなければならない筋合である。そうして見れば、仮令、該金員が、被告人田中又は山西の両名中何人より被告人田畑に供与されたものであるか不明であるとしても、提出者である被告人山西より、証第四号の現金を没収した原審の措置には、何等違法不当が存しないから、論旨は理由がない。弁護人は「原判決は、被告人山西に対する没収の理由を説明するに当り、同被告人が被告人田畑より、現金の返還を受けたことを判示して居らないから、その理由に不備があるものである。」旨主張するけれども、没収理由の判示としては、当該物件が没収の法定要件に該当すること及び没収に関する適用法条を挙示すれば足り、特定の被告人に対し、その言渡を為すに至つた所以について迄、態々判示するを要しないと解すべきであるから、原判決は理由に不備のあるものでなく、論旨は理由がない。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)